久枝 II 遺跡

[ 石製指輪 ]
[ 石製指輪 ]
所在地
 西条市周布
所属時期
 弥生時代中期・古代8世紀

 瀬戸内海の燧灘に面した道前平野のほぼ中央、肥沃な沖積低地の微高地に久枝 II 遺跡はあります。

 弥生時代の遺構が見つかった下層遺構面は、上・下二つに分けることができ、上面では弥生時代後期後半から古墳時代初頭の遺構が少しですが見つかり、下面では弥生時代中期中葉から後葉にかけての遺構・遺物が多量に見つかりました。
 特筆することができる遺物としては弥生時代中期後半の蛇紋石製の指輪があります(右写真)

 その大きさは径2.2cm、厚さ3mm、重さ1.07gを計り、深緑で鈍く光るその色調とシンプルな形状は中国大陸の漢文化にみる銀製指輪に酷似する優品です。
 この指輪はムラの有力者のアクセサリーであっただけでなく、朝鮮半島や中国大陸との交流をも物語っています。

石製指輪
[ 石製指輪 ]
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石剣・分銅型土製品
[ 石剣・分銅型土製品 ]
 区画溝から出土した緑色片岩製の磨製石剣(←写真左下)、そしてその近くで出土したサヌカイト製打製石剣(←写真中)です。この2つの短剣は、ムラの有力者がもつ力のシンボルであり、ムラ全体で行う豊穣祈願のマツリの道具としても使われていたと考えられます。

 分銅形土製品(←写真右上)は、上部に顔の表現があり、そのほとんどが割れて出土する傾向があります。これは、ムラに住む家族が、分銅形土製品を使って呪術的行為を行うなかで、割り、そして捨てた結果とみることができます。
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 久枝 II 遺跡の弥生ムラには、物が集まる物流センターのような機能も持っていたようです。それを裏付けるように山陰や山陽の土器など多種多様な弥生土器が出土しています。

 弥生時代中期中葉から後葉の遺構としては、一辺が約30mでやや変形のコ字の形をした溝が検出され、その周辺で多数の竪穴住居と集石遺構や土坑が見つりました。このコ字形区画溝で区画されたところを祭祀場と考え、これを取り巻く形で人々が住んでいたと考えられます。ちなみに今回の調査区で検出した遺構は、竪穴住居20棟、土坑約100基、溝25条を数えることができます。竪穴住居には火災を受けた住居もあり、広葉樹で作られた柱材が残っていた柱穴も見つかっています。

 久枝 II 遺跡の中期弥生ムラの範囲は、調査でその北の端は確定することができましたが、全体の大きさについてはまだわかっていません。しかし南に隣接する久枝遺跡では中期前半の遺構が見つかっており、また中細形銅剣が出土したといわれる扇田遺跡が南西方向、約400mに位置していることから、当時の地形環境も考慮すると、北東に伸びた舌状の微高地の長さ約500m、幅約200mの範囲に集落域を想定することができ、おそらく中期前半は北西側がムラの中心で、中期後半に中心が南西側にムラが移動したのではないでしょうか。

 いずれにしても今回の調査で道前平野における弥生時代中期の中核的な拠点集落の一端を明らかにすることができたことは大きな成果です。


 上層遺構面では、限定された調査範囲ですが、23棟の掘立柱建物と数条の溝、柵列、掘立柱塀、土坑が見つかりました。これらの遺構は7世紀後半から8世紀末にかけて営まれており、大きく3つの時期に区分することができます。

 I 期は7世紀後半から8世紀初頭で、建物の主軸方向は正方位を向きます。ところが II 期(8世紀前半)になると建物の方向は大きく変化し、北から41度西の方向にほぼ統一されるようになります。そして庇をもつ大型の掘立柱建物を中心に直列で並ぶ小型の掘立柱建物群や単独で存在する建物や総柱構造の倉が配置されるようになります。これは III 期(8世紀後半)にも継続し、ほぼ同一場所で建て替えが行われ、建物は規模がやや大きくなります。こうした II ・ III 期の建物規模と配置から考えると周敷郡衙の施設(館あるいは郡庁)であったと考えられます。

 また、赤色塗彩土師器や円面硯、焼塩土器の出土状況や煮炊する道具が少ないなどの遺物組成も郡衙施設とする要素を満たしています。また、南に隣接する久枝遺跡で出土した石製腰帯も、久枝II遺跡とその周辺が官衙であった可能性が高いことを物語っています。今後、周辺の発掘調査例が増加すれば、周敷郡衙の具体的な状況が明らかになるものと考えられます。

様々な弥生土器1
[ 様々な弥生土器1 ]
様々な弥生土器2
[ 様々な弥生土器2 ]
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様々な弥生土器3
[ 様々な弥生土器3 ]
山陰の弥生土器?
[ 山陰の弥生土器? ]
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〜この遺跡の発掘調査報告書はこちら〜


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